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第4回「研修についてVol.2」




--お医者さんになるには、大学でありとあらゆる病気について学ぶものなんですか?

奥野:一応すべての病気について勉強します。でも、すべての病気を並列に学ぶんですよね。非常に珍しい、一生に一度かかるかどうかという病気も、ただの風邪も…。むしろ逆に風邪なんかは詳しく勉強しなかったかな。なので、どれがありふれた病気でどれが珍しい病気なのか、どれがすごく重い病気でどれがすぐに治る病気なのか、といった感覚が全くないんです。なので、なかなか判断ができない。まだ学生の頃、患者さんの診察をする機会があった時に、いろいろ考えてこれは重い病気なんじゃないかと思ったら、実はなんでもなかったということが結構ありましたね。

松村:重い病気について学んでいても、ありふれた病気については…、例えば発熱している時の診断とか、高血圧をどう治療したらいいかとか、大学ではあまり習わないんです。基本的には臨床現場での経験、いろんな患者さんと接するという経験が大事になってくる。病院に来る患者さんと診療所に来る患者さんとでは病気のタイプも、症状の出方もちょっと違いますし、そうなると、それぞれの患者さんにベストな医療を提供するためには、診療所でのきちんとしたトレーニング経験が必要になってくるわけです。

--病気の知識があればいいというものではなく、やはり経験もものを言うのですね。患者さんの過去の病歴やその人の生活習慣などがわかっていたら、診断も違ってくるのでは?

奥野:そう思います。実際、病院に勤務していると、どこが悪いかよくわからない時はすぐ血液検査をすればいい、というように機械に頼ってしまいがちなのは確かで…。大病院や市民病院のように最新の医療機器は充実していなくても、それを補うだけの役割が診療所にはあると思うんですが、そこを松村医院から学んでいきたいと思っています。実際、松村先生が患者さんを診察している様子を見て、長年かかわっているからこそ、患者さんの話を聞いたり、診たり触れたりしただけで、病状や健康状態がわかるんだなと感じました。実はそこが一番大切なんだろうな…と。

松村:いわゆる診療所のような地域密着の医療には、家庭医として、ごくありふれた病気を診ることができるかどうか、できるだけ機器に頼ることなく診療ができるかどうかが求められてきます。私の場合は、もともとないところでどうやるかをめざして研修をしてきたこともあるので、もともとあまり違和感がなかったです。けれども、そうじゃなくて、機器に頼ってまれな病気ばかりを診る病院の医療にどっぷり漬かって、いきなり診療所での診療を始めると、頼る機器がないことに戸惑うだろうし、ありふれた病気の診療にも慣れてないので、診療所の診療自体が難しいと感じてしまうかも知れないのです。診療所では、患者さんのお話や、触診、聴診などの五感を使った診療や、ありふれた病気の中から重篤な疾患を早期に発見するような診療が重要で、そのためにはやはりそういったトレーニングを受けなければならないのです。でも、今の日本の医学の勉強の仕方をして、研修をしていくと、よっぽどのことがない限り診療所には行かないし、逆に診療所の先生が病院に来ることも、大学に教えに来ることもあまりないのです。だからほとんどの医学生は、地域に根差したプライマリ・ケア、家庭医というものがどういうものかということを知らないで医師になっていってしまうんです。私の場合は自宅で父が診療をやっていて、町の医者とはそういうものだと当り前のように思って育ったので、大学で学んでいた頃は逆に、家庭医や地域医療について教える先生がなぜ大学にいないのかと、いつも疑問に感じていました。

--その先生が、現在は教える立場にあるということですね?

松村:ええ。私の場合たまたまポジションがあって、いろいろ教育に携わる機会が与えられているわけですけど、ここ数年、大学の先生たちの間でも、大学病院は専門化しすぎてしまって医学生の教育や研修医のトレーニングはこれではいけないんじゃないかと問題にされるようになってきたのです。患者さんに対して家族の背景や事情をふまえた密接な関わり方とか、それこそありふれた病気をきちんと診療できる力を身につけられるように、ということが課題になってきたのです。最近は、大学側から、診療所に学生を受け入れてくれないか、といってくるようになってきています。さらに、インターネットなどを使って、勉強熱心な医学生は自分で実習生を受け入れている診療所を探して独自に研修に行くようになってきたんです。

--奥野さんは研修の中で往診にも同行されたそうですが、どんな感想を持ちました? 在宅医療の一面は、今の病院勤務の立場ではまるで見えない部分ですよね?

奥野:そうなんです。松村先生に同行してみて、お宅に往診してみないとわからないことが大いにあるんだなと感じました。どういう環境で療養しているのか、家族の方が患者さんをどうケアしているのか、家庭の事情とか、家族との関係とか…。実はそういう患者さんをとりまく環境のことがわかっているかどうかで、診療の仕方が大きく変わってくるのだということにも気づきました。きめ細やかに患者さんのニーズに応えることをめざしたら、そこは絶対に外せないだろうと思いました。

松村:大学病院に勤務していた時には、次々目の前に患者さんがやってくるのが当り前で気づかなかったのだけれど、この医院を父から引き継いで、地域の人々の訪問診療をやるようになって改めて感じたのは、病院って遠いんだなあということ。身体が不調な時に病院に出向くには(特にお年寄にとっては相当)労力がいるし、いざ病院に着いてもいくつかの手続きをふまなければいけなかったり、待合室で長時間待たなければならなかったりで、すぐ先生に診てもらえるわけじゃない。父の診療を子供の頃から見ていた感覚としては、医療って身近だと思ってたのが、実は大きな病院になればなるほど遠くなっているんだなと気づいたんです。だから患者さんは、ちょっと具体が悪くなった、あそこが気になる、といったことでは我慢してしまうんじゃないかなと…。お年寄や寝たきりの患者さんは、こちらから出向くことでケアしてさしあげられるし、小さな変化ではなかなか病院までは行けないという人もうちの医院へは気軽に訪ねて来てもらいたいとつねに思っています。実際、来てますよ。

--松村医院を引き継いだばかりの頃と今とでは、患者さんとの関係に変化があります?

松村:やはり当初というのは、近所で顔見知りの人もいたんですけど、患者さんのその人自身のことをよく知らなかった。何度かお会いしているうちに、どういう人かということがわかってきたり、家族関係や生活環境というものが見えてきました。まあ、父や母が知っていることが多かったのですが。また、病気に関して心配する度合いとか、痛みに対する度合いというのが人によって違うので、そういうことがわかってくると、診療をするうえで患者さんとの信頼関係が密接になってきましたね。
 もう一つ、地域の人達…地元の看護師さんや福祉関係の人などに、患者さんを通じて出会い、関係が深まってきたことも大きな変化です。実際、お医者さんにできることって限られていて、病気の方の療養のためにはいろんな職種の人たちの専門知識をお借りして、逆にいろいろ助けてもらうことが多いんです。例えば、便秘の人のお腹のマッサージの仕方とか、そういうことを教わったり…。


--2日間、松村医院での研修を終えた奥野さん。日常の業務に戻られてから何か変化があるでしょうか?

奥野:はい、変わると思います。これまではほとんど気に留めてなかったんですけど、その患者さんの日常生活とか家族構成とかを想像したり、背景に思いが行くようになってきた気がします。この人は家ではどんな扱いをされてたのかとか、家族は何をしてるのかと気になるだろうなと。病気だけを診るのでなく、その人を診ようというふうに興味がわいてきましたね。それと、外来のありふれた病気、コモン・ディジーズの勉強をしたいと思いますね。今、外来と病棟と両方を受け持ってるんだけど、外来の方にウェイトをおいていきたい。病棟は重い病気の人が多いのだけれど、外来は、風邪だとか便秘だとかが多いのですが、こういった軽い病気についても、しっかりと勉強していきたいと思います。

--将来、奥野さんは医師としてどういう方向に進みたいのでしょうか?

奥野:松村医院がそうであるように、僕自身も地域に密着した医療をめざしたいと考えています。今の市内にある診療所というのは、もっと“かかりつけ医”と“在宅医療を支える”と役割を発揮できるんじゃないかと思うんです。松村医院の研修を通してそう感じました・・・。将来的には、今ある診療所をちゃんと整備して、診療所にしかできないような医療をしていきたい。生まれ育った平田市の方で、地域の人々に貢献できたらいいなと漠然と考えています。

--奥野さん、ぜひ地域の人々に愛されるお医者さんになってくださいね。ご協力ありがとうございました。

研修生がいる日は「学生が来ています」という張り紙をしています。
患者さんによっては研修医が立ちあっていることを好まない方、他の人に聞かれたくない相談事があるという方もいらっしゃると思います。そういう時は受付で申し出ていただければ、研修生には席を外してもらっています。わたしの方でもある程度判断してそのようにしていますけど、立ち会いを望まない方は遠慮なく言ってもらえればすぐ対応いたしますので、ご協力よろしくお願いします。


(取材:2003年8月)



次回は《コミュニケーションについて》を予定しています。