松村:長年に渡って医療というのは、生存期間の延長…つまりいかに長く生命を延ばすことができるかどうか、ということが第一の目標でした。もちろん今でもそれが第一です。ところが今や、医療の進んだ先進国では平均寿命が飛躍的に延びて、ますます高齢社会となっていますね。寿命が延びるに従って多くのお年寄は何らかの病を患い、病床にいる期間も長くなった。床に伏せていなくても、自覚症状はないけれど実は病気を持っている、という人も増えてきています。そうなると、医療に対する善し悪しを治癒率や生存期間だけで測るのが果たしてベストかどうか、という声が高まってきました。治癒率は高くなり生命の維持は可能になったけれど、その分、薬の副作用で苦しんだり、チューブにつながれベッドに寝たきり状態だったり…。「果たしてそれで、最期を迎えた時に幸せな人生だったと言えるだろうか?」「もっと人として尊厳を保った生活を送れないものだろうか?」ということが、医療の現場で議論されるようになったのです。
そこで近年、『クオリティ・オブ・ライフ(Quality of life)』や『診療満足度』という、医者側ではなく患者さんや社会の視点に立った指標が新たに採り入れられはじめてきました。『クオリティ・オブ・ライフ』とは「生活の質・生命の質」という意味ですが、「いかに人が人としての尊厳を保ちながら、より快適で心安らぐ生活を送ることができるか」ということを追求しています。また『満足度』とは、その治療に対して患者さん自身が満足しているか、高い満足度は得られたか、ということがポイントになります。