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--そうなってもらわないと治療した意味がないわけですが、実際はどうでしょうか。手術をしたら抵抗力や免疫力などが衰えるだろうし、弱った身体には薬の副作用という心配も出てくるのではないかと…。

松村:実はそうなんです。そこが難しいところなのです。よく見ていくと、いずれもおすすめ度Aクラスだけれど、実はそれぞれ治療の効き具合は微妙に違うということなのです。Number Needed to Treat(治療必要数)という、治療効果をみる指標を用いて簡単に説明をしてみましょう。たとえば高血圧治療の効果は、30人治療して脳卒中の発生を1人減らせる、胃潰瘍治療の効果は、2人治療して1人再発を減らせる、肺ガン治療の効果は、5人治療して1人再発を減らせる程度である、というデータが出ています。30人と2人と5人では相当、治癒する確率が違いますよね。しかし、その人によって薬の効き具合、アレルギー反応などはそれぞれ違ってきますから、おすすめ度Aクラスだからと言って、治療すれば必ず良くなるというわけではないんです。さらに、それぞれの薬を飲むと、混ざり合って効果を出すこともありますし、逆に相殺されて効果が思ったように出ないということもあります。またその人の価値観などによって、どの病気が一番心配か、どの病気を一番重要と考えるかもまちまちです。このあたりを考えながら治療法を決めていかなければいけないのです。ここが病気治療の難しいところと言えますね。
 では、ただちに病気を治療したほうがよいというのはどんなときか?これははっきりしています。治療をすると今より状態が良くなって、治療をしないとずっと悪くなるようなとき、ですね。でも治療が常に100%効果があるとは限りません。薬が効かなかったり、逆にアレルギーを起してしまったり…治療してもいっこうに変化なしということもある。その反対に、病院へ行かずに家庭での食事療法だけで治ることもあれば、ゆっくり寝てストレスがとれれば良くなることもあるのです…。いわゆる自然治癒力が引き出されて、特別な治療をしなくても自然に良くなってしまうことももちろんあるわけです。
 ですから、治療すると良くなる、治療しないと悪くなるという判断をするのはすごく難しい。そこを見極めるのがお医者さんの仕事なわけで、医療を提供する側の専門的な知識や経験を元に、患者さん一人ひとりの状況に応じて調整し、的確な診療をしていかなければならないところなんです。

--素朴な疑問なのですが、不治の病と言われるものも中にはありますが、多くの病気というのは何らかの治療を施せば必ず治るものなんでしょうか?

松村:確かに病気には治るものと治らないものがあります。で、短期的に治る病気の多くは急性疾患と言うんですが、たとえば風邪、水ぼうそう、切り傷、捻挫、食あたりなどですね。一方、なかなか治らない病気、あるいは完全には治らない病気は慢性疾患と言います、高血圧、高脂血症、糖尿病、花粉症、慢性腰痛症、肝炎、ある種のがんなどです。実は、この世の中、治る病気より治らない病気のほうが圧倒的に多いんですよ。まあ、世の中のたいていのお医者さんは、こうした治らない病気でも症状をできるだけ軽くして、このような病気といかにうまくつきあっていくか、その方法を模索し、提案しながら患者さんの心身のケアをしていくのが主な仕事ということになるわけです。




--治らない病気の方が圧倒的に多いというのは意外でした。とはいえ、医療が進歩したおかげで、私たちは病気で命を落とす割合が減り、より長く生きられるようになっていることは確かですよね。

松村:長年に渡って医療というのは、生存期間の延長…つまりいかに長く生命を延ばすことができるかどうか、ということが第一の目標でした。もちろん今でもそれが第一です。ところが今や、医療の進んだ先進国では平均寿命が飛躍的に延びて、ますます高齢社会となっていますね。寿命が延びるに従って多くのお年寄は何らかの病を患い、病床にいる期間も長くなった。床に伏せていなくても、自覚症状はないけれど実は病気を持っている、という人も増えてきています。そうなると、医療に対する善し悪しを治癒率や生存期間だけで測るのが果たしてベストかどうか、という声が高まってきました。治癒率は高くなり生命の維持は可能になったけれど、その分、薬の副作用で苦しんだり、チューブにつながれベッドに寝たきり状態だったり…。「果たしてそれで、最期を迎えた時に幸せな人生だったと言えるだろうか?」「もっと人として尊厳を保った生活を送れないものだろうか?」ということが、医療の現場で議論されるようになったのです。
 そこで近年、『クオリティ・オブ・ライフ(Quality of life)』や『診療満足度』という、医者側ではなく患者さんや社会の視点に立った指標が新たに採り入れられはじめてきました。『クオリティ・オブ・ライフ』とは「生活の質・生命の質」という意味ですが、「いかに人が人としての尊厳を保ちながら、より快適で心安らぐ生活を送ることができるか」ということを追求しています。また『満足度』とは、その治療に対して患者さん自身が満足しているか、高い満足度は得られたか、ということがポイントになります。

医療の指標
【従来の指標】
医療者の視点からみた指標
【新しい指標】
患者や社会の視点からみた指標

 ■治癒率 

 ■生存期間 

 ■(副作用)

 ■クオリティ・オブ・ライフ
        (生活・生命の質)

 ■満足度

 ここに「生きることの量と質」を比較したグラフがあるのですが(グラフ1参照)、Aはそれほどきつい治療ではないが生存期間は長くない、Bは大変つらい治療によって長く生きることができる、というものです。さて、あなたはどちらを選択しますか?


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